税抜経理と税込経理はどちらがよい?正確な現状把握と経営判断のための判断方法

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

会計ソフトを導入するときには、税抜経理と税込経理のどちらかを選択しなければなりません。

このとき、

「税抜経理の方が、少額減価償却資産の判定で有利なのではないか」

「交際費の損金算入限度額を考えると、税抜経理の方がよいのではないか」

といった、税務上の違いが気になることがあります。

確かに、税抜経理と税込経理の違いによって、少額減価償却資産や交際費などの金額判定が変わることはあります。

しかし、これらは経理方式を決めるうえでの中心的な問題ではありません。

税抜経理と税込経理を選ぶ本来の目的は、経営者が、

  • 自社の本当の売上はいくらか
  • 本当に負担している経費はいくらか
  • 利益はいくらか
  • 消費税納付分を除いた、実際に使える資金はいくらか

を正しく把握することです。

税抜経理・税込経理は、税金を少し有利にするためではなく、会社の現在地を正しく見るために選ぶものです。

結論|弊所の基本方針

弊所では、経営者が利益と資金を正しく認識できるようにするため、次の経理方式を基本としています。

消費税の計算方法基本とする経理方式
原則課税税抜経理
簡易課税原則として税込経理
免税事業者税込経理

これは、単に税務申告書を作成しやすくするための方針ではありません。

月次の売上、利益、資金を、経営判断に使える数字にするための方針です。

課税事業者は、税務上、税抜経理と税込経理のいずれかを選択できます。一方、免税事業者は、法人税や所得税の所得金額を税込経理によって計算します。

税抜経理と税込経理の違い

税抜経理と税込経理では、売上や経費に消費税を含めるかどうかが異なります。

税抜経理

税抜経理では、売上や仕入、経費から消費税相当額を分けます。

例えば、税込110万円の売上があった場合は、次のように処理します。

内容金額
売上100万円
仮受消費税等10万円

税込55万円の経費を支払った場合は、次のように処理します。

内容金額
経費50万円
仮払消費税等5万円

消費税相当額を、本業の売上や経費とは分けて表示する方法です。

税込経理

税込経理では、消費税相当額を売上や経費に含めます。

先ほどの例では、売上は110万円、経費は55万円となります。

納付する消費税額については、原則として租税公課として費用計上します。

大切なのは「利益をどう見るか」

税抜経理と税込経理では、会計帳簿に表示される売上や経費の金額が変わります。

しかし、本当に重要なのは、会計処理そのものではありません。

経営者が、その数字を見て、

  • 今、本業でいくら利益が出ているのか
  • 会社にいくらお金が残っているのか
  • そのお金のうち、いくらまで自由に使えるのか
  • 新しい投資や採用をしても大丈夫か

を判断できることが重要です。

会計ソフトで計算できていても、経営者が税込売上や消費税納付前の預金残高を見て判断しているのであれば、正しい経営管理にはつながりません。

原則課税は税抜経理を基本とする

原則課税では、基本的に、売上に係る消費税額から、仕入や経費に係る控除可能な消費税額を差し引いて納付額を計算します。

そのため、消費税を本業の売上・経費・利益から分けられる税抜経理の方が、経営実態を把握しやすくなります。

税込1,100万円の売上を、すべて自社の売上と考えない

例えば、標準税率10%の取引だけを行っている会社に、税込1,100万円の売上があったとします。

税抜経理では、原則として次のように考えます。

内容金額
本業の売上1,000万円
売上に係る消費税相当額100万円

100万円の消費税相当額は、本業によって生み出した売上や利益ではありません。

さらに、控除可能な税込経費が550万円だったとすると、単純化した計算では次のようになります。

内容金額
税抜売上1,000万円
税抜経費500万円
本業の利益500万円
売上に係る消費税相当額100万円
経費に係る控除可能な消費税相当額50万円
消費税納付見込額50万円

経営者が見るべき数字は、本業の利益500万円です。

また、預金のうち50万円は、将来納付する消費税の見込額として、自由に使える資金から除いて考える必要があります。

実際の納付額は、軽減税率、非課税取引、課税売上割合、インボイスの保存状況、中間納付などによって変わります。

原則課税の経営者に持っていただきたい認識

原則課税で税抜経理を採用する目的は、仕訳を細かくすることではありません。

次のような数字の見方を、日常的な経営判断の基準にすることが目的です。

売上は税抜金額で考える

税込1,100万円の売上であれば、本業の売上は原則として1,000万円です。

売上目標、粗利益率、人件費率、広告費率なども、税抜金額を基準として考えます。

経費も控除可能な部分は税抜金額で考える

仕入税額控除を受けられる消費税については、本業の経費から分けます。

これにより、商品やサービスそのものに、いくらのコストがかかっているのかを把握できます。

消費税納付見込額は利益ではない

売上時に入金された消費税相当額は、一時的に会社の預金残高を増やします。

しかし、将来納付する見込額まで会社の利益と考えるべきではありません。

消費税納付見込額は、自由に使える資金から除く

消費税相当額は、法律上の預り金そのものではありません。

しかし、経営管理上は、納税まで会社の手元に留まる「預り金的な性格」を持つ資金として扱うのが安全です。

残しておくべきなのは、売上時に受け取った消費税相当額の全額ではありません。

基本的には、

売上に係る消費税相当額
-仕入・経費に係る控除可能な消費税相当額
-中間納付済みの消費税額等

によって計算した、現時点の納付見込額です。

「消費税を払ったからお金がなくなった」と考えない

消費税の納付時には、預金が減ります。

しかし、納付見込額を毎月把握し、自由に使える資金から除いていれば、納付時に突然資金がなくなるわけではありません。

「消費税を払ったからお金がなくなった」

のではなく、

「消費税として納付する予定のお金まで、会社が自由に使える資金だと考えていた」

可能性があります。

原則課税で税抜経理を採用する目的の一つは、この誤認を防ぐことです。

原則課税で税込経理を採用すると生じやすい問題

原則課税で税込経理を採用すること自体が、税務上間違いというわけではありません。

ただし、月次で消費税納付見込額を計上していなければ、次のような問題が生じやすくなります。

売上が本業の売上より大きく表示される

税抜1,000万円の売上が、税込経理では1,100万円と表示されます。

税込売上だけを見ていると、事業そのものの売上規模を大きく認識してしまう可能性があります。

月次利益が多く見える

税込経理では、納付する消費税を租税公課として処理します。

消費税納付見込額を決算時まで計上しなければ、期中の月次利益は実態より多く表示されます。

決算時にまとめて租税公課を計上すると、今度は決算月だけ利益が大きく減ります。

これでは、月ごとの業績変化を正しく比較できません。

預金残高を自由に使える資金と誤認しやすい

消費税納付前の預金残高を、そのまま会社が使える資金と考えると、設備投資、採用、役員報酬、節税支出などの判断を誤る可能性があります。

そのため弊所では、原則課税については税抜経理を基本としています。

税抜経理でも、消費税が利益に影響することはある

税抜経理だからといって、すべての消費税が本業の損益から完全に除かれるわけではありません。

課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満の場合などには、仕入や経費に係る消費税の一部を控除できないことがあります。

この控除できない消費税額等は、経費、資産の取得価額または繰延消費税額等として処理されるため、利益に影響することがあります。

したがって、正確には、

税抜経理は、仕入税額控除の対象となる消費税を、本業の売上・経費・利益から切り離す方法

と理解するのが適切です。

簡易課税は原則として税込経理を基本とする

簡易課税では、実際に支払った消費税額を積み上げて、仕入税額控除を計算するわけではありません。

売上に係る消費税額に、事業区分ごとのみなし仕入率を掛けて、仕入控除税額を計算します。

事業区分や税率、売上構成が大きく変わらなければ、簡易課税による消費税納付額は、概ね売上に連動します。

そのため弊所では、簡易課税の消費税を、

売上に連動して発生する事業上の負担

として捉え、原則として税込経理を採用します。

税込経理では、

  • 売上は税込金額
  • 仕入・経費も税込金額
  • 消費税納付見込額は租税公課

として利益を計算します。

簡易課税では、消費税納付見込額を月次計上する

簡易課税で税込経理を採用しても、消費税納付見込額を決算まで計上しなければ、月次利益が実態より多く表示されます。

例えば、年間の消費税納付見込額が60万円で、毎月の売上がほぼ同じであれば、経営管理上は毎月おおむね5万円を租税公課として見込計上する方法が考えられます。

これにより、

税込売上-税込経費-消費税納付見込額

によって、消費税負担を反映した月次利益を確認できます。

簡易課税で税抜経理を採用した場合、帳簿上の仮受消費税等と仮払消費税等の差額は、簡易課税による実際の納付額と通常一致しません。その差額は雑収入または雑損失として処理されます。

税務上は問題ありませんが、消費税による雑収入や雑損失が発生するため、経営者にとって利益の構造が分かりにくくなることがあります。

免税事業者は税込経理

免税事業者は、法人税や所得税の所得金額を税込経理によって計算します。

会計ソフト上で税抜表示をしていたとしても、税務上は、消費税相当額を売上、仕入、経費、資産の取得価額などに含めて計算する必要があります。

免税事業者がインボイス発行事業者として登録し、課税事業者になった場合には、原則課税、簡易課税などの消費税計算方法とあわせて、経理方式を再検討します。

注記|交際費や少額減価償却資産への影響はあるが、判断の中心ではない

税抜経理と税込経理では、法人税や所得税に関する一部の金額判定が変わります。

無視してよいわけではありませんが、会社全体の経理方式を決める目的から見れば、副次的な論点です。

少額減価償却資産の取得価額判定

少額の減価償却資産、一括償却資産などの取得価額基準は、その会社が採用している消費税の経理方式に応じて判定します。

税抜経理であれば原則として税抜価額、税込経理であれば税込価額を基準に判定します。

また、一定の中小企業者等に認められる少額減価償却資産の特例については、2026年4月1日以後に取得等をする資産から、取得価額基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。年間合計300万円という上限は継続しています。

したがって、取得価額が基準額の近くにある場合には、税抜経理か税込経理かによって、当期に全額を経費にできるかどうかが変わる可能性があります。

交際費の金額判定

交際費についても、税抜経理の場合は原則として税抜金額、税込経理の場合は税込金額を基準として、交際費等の額を計算します。

社外の者との飲食費が交際費等から除外される1人当たり1万円以下の判定も、会社が採用している税抜・税込の経理方式に応じた金額によって行います。

対象となる中小法人の年800万円の定額控除限度額に含まれる交際費の金額についても、経理方式による影響を受けます。

ただし、税抜経理であっても、仕入税額控除できない消費税額等は、交際費等の額に含まれることがあります。

税務上の違いを、経理方式選択の主目的にしない

少額減価償却資産や交際費の金額が基準額の近くにある場合には、税抜経理と税込経理の違いが税額に影響することがあります。

しかし、会社全体の経理方式は、毎月発生するすべての売上、仕入、経費、利益、資金の見え方に影響します。

そのため、

交際費枠を少し多く使えるか
少額資産を当期に経費にできるか

という個別の税務上の差よりも、

経営者が会社の現在地を正しく把握できるか
正しい利益を基準に意思決定できるか
納税予定額を除いた資金で投資判断できるか

を優先すべきです。

税務上の判定は、選択した経理方式に従って正確に行います。

しかし、その税務上の差を目的として、会社全体の経理方式を選ぶものではありません。

税抜経理・税込経理の判断手順

判断するときは、次の順番で考えます。

1.消費税の計算方法を確認する

まず、会社が次のどれに該当するかを確認します。

  • 原則課税
  • 簡易課税
  • 免税事業者

2.経営者に見ていただきたい利益を明確にする

原則課税であれば、消費税を除いた本業の売上・経費・利益を基準とします。

簡易課税であれば、消費税を売上に連動する負担として捉え、消費税納付見込額を差し引いた利益を基準とします。

3.消費税納付見込額を月次で反映する

どちらの方式を採用しても、消費税納付見込額を把握できなければ、自由に使える資金は分かりません。

特に税込経理では、消費税納付見込額を月次利益に反映しているかが重要です。

判断表

事業者の状況弊所の基本方針経営管理上の考え方
原則課税税抜経理本業の売上・経費・利益と消費税を分ける
簡易課税原則として税込経理消費税を売上に連動する事業上の負担として捉える
免税事業者税込経理税込金額を売上・経費・利益として把握する

まとめ

税抜経理と税込経理の違いは、単なる会計ソフトの設定ではありません。

経営者が、

  • 本当の売上
  • 本当に負担している経費
  • 本業の利益
  • 消費税納付後に自由に使える資金

を正しく把握するための重要な会計方針です。

弊所では、次の方式を基本としています。

原則課税は税抜経理
簡易課税は原則として税込経理
免税事業者は税込経理

少額減価償却資産や交際費の金額判定にも、税抜経理と税込経理の違いは影響します。

ただし、それらは税務上の個別論点です。

会社全体の経理方式を選ぶうえで最も重要なのは、税金を少し有利にすることではありません。

正確な現状を把握し、正しい利益と資金を基準として、経営判断を行える状態をつくること

これが、税抜経理と税込経理を正しく選択する本来の目的です。

佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。