
こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。
中小企業の経営者であれば、役員退職金、小規模企業共済、イデコのうち、2つ以上を受け取り、リタイヤ後の生活の原資とすることが多いと思います。
そして、これらは多額になることが多く、その税金負担は気になるところかと思います。
本ブログでは、役員退職金、小規模企業共済、イデコの3つを受け取る場合の退職所得の計算方法、具体的には「退職所得控除」、「2分の1課税」はどうなるのかについて解説したいと思います。
目次
退職所得控除の「重複」「使い残し」「受け取る年」を事例で解説
小規模企業共済、iDeCo、会社からの役員退職金。
これらを受け取るときに、気になるのが「退職所得控除をそれぞれ使えるのか」「同じ年に受け取るのと、年を分けるのでは、どちらが有利なのか」ということです。
考え方の基本は、次の式です。
今回使える退職所得控除
=今回の受給対象期間に対応する控除額
−過去の受給と重複する期間に対応する控除相当額
ただし、差し引くのは、税法上、調整の対象になる重複期間だけです。
過去の受取額が少なかった場合や、受給する年が十分に離れている場合は、取扱いが変わります。
この記事では、基本の計算方法から、小規模企業共済650万円・役員退職金2,000万円・iDeCo300万円を受け取る具体例まで説明します。
※2026年9月時点の制度に基づく解説です。将来の受給例は、現行制度が継続する前提の試算であり、将来の税額を保証するものではありません。
退職所得には「控除」と「2分の1課税」がある
まず、この記事で対象とする受け取り方を整理します。
| 受け取るもの | この記事で想定する受け取り方 |
|---|---|
| 小規模企業共済 | 個人事業を廃業し、共済金を一括で受け取る |
| iDeCo | 受給要件を満たし、老齢給付金を一時金で受け取る |
| 役員退職金 | 役員を退任し、税務上も退職金と認められるものを受け取る |
これらは、所定の要件を満たせば、いずれも「退職所得」として扱われます。
通常の退職所得では、次の計算によって、税金を計算する対象額を求めます。
課税退職所得金額=(受取額−退職所得控除)×1/2
つまり、受取額から控除を引き、その残りを半分にしてから税率をかける仕組みです。
控除額以下の受取であれば、課税退職所得金額は0円になります。
ここで大切なのは、「退職所得控除」と「2分の1課税」は別の仕組みだということです。
過去の退職金との重複によって控除が減っても、それだけを理由に2分の1課税が使えなくなるわけではありません。
ただし、役員等勤続年数が5年以下の役員退職金などには例外があります。
退職所得控除の基本額
| 控除計算上の年数 | 退職所得控除の基本額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×年数 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(年数−20年) |
例えば、20年なら800万円、22年なら940万円、30年なら1,500万円です。今回の対象期間に1年未満の端数があれば、原則として切り上げます。
退職所得控除は「今回の期間分−重複する期間分」で考える
過去にも退職金などを受け取っている場合は、次のように整理すると分かりやすくなります。
| ケース | 今回使える退職所得控除 |
|---|---|
| 調整対象となる重複がない | 今回の受給対象期間に対応する控除額 |
| 調整対象となる重複がある | 今回の受給対象期間に対応する控除額−重複期間に対応する控除相当額 |
例えば、今回の対象期間が20年であれば、本来の控除は800万円です。
調整対象となる重複がなければ800万円を使い、過去の受給との調整対象の重複期間が10年なら、10年分の400万円を差し引きます。
800万円−400万円=400万円
これが、今回使える控除額です。以下の例では、過去の受取額が少ない場合の特例は考慮していません。
年数を引くのではなく、控除額同士を引く
注意したいのは、対象期間から重複期間を引いて、その残りの年数だけで控除を計算するわけではないことです。
例えば、今回の対象期間が30年、調整対象の重複期間が10年なら、
30年分の控除1,500万円−10年分の控除400万円=1,100万円
となります。
「30年−10年=20年なので、控除は800万円」という計算ではありません。
20年を超える部分は1年当たり70万円になるため、結果が異なります。
端数処理と最低額にも注意
今回の対象期間は1年未満を切り上げますが、過去との重複調整に使う期間は1年未満を切り捨てます。また、重複調整後の控除額が80万円未満となる場合は、原則として最低80万円の控除を使います。
最初に使い切れなかった控除は、次の受取にも活かせる
「最初の受取額が少ないと、余った退職所得控除が無駄になるのでは?」
この点は、誤解されやすいところです。
最初の受取で控除を使い切らなくても、後の受取で控除を使える余地が残る仕組みがあります。
過去の受取額がその対象期間の控除額を下回る場合には、過去の対象期間を短く計算し直して、重複調整を行うためです。
事例:控除800万円に対して、最初に400万円を受け取る
説明のため、最初と次の給付の対象期間が、まったく同じ20年間だったとします。
最初の年に400万円、翌年に1,000万円を受け取り、ほかの退職金はない前提です。
| 項目 | 最初の年 | 翌年 |
|---|---|---|
| 受取額 | 400万円 | 1,000万円 |
| 本来の退職所得控除 | 800万円 | 800万円 |
| 過去の受給によって差し引く額 | なし | 400万円 |
| その年に使える控除 | 800万円 | 400万円 |
| 課税退職所得金額 | 0円 | (1,000万円−400万円)×1/2=300万円 |
最初の400万円は、1年当たり40万円で換算すると、10年分に相当します。
そのため、翌年は20年分全部を差し引くのではなく、10年分の400万円を差し引きます。
翌年の控除=800万円−400万円=400万円
この例では、実質的に「最初に使い残した400万円を、次の受取に回した」と考えると分かりやすいでしょう。 国税庁の調整方法に基づく計算例です。
ただし、次の給付の対象期間が異なる場合などには、使える金額も変わります。
「使い残しは次にも活かせることがある。ただし、次に使える額は対象期間などによる」と理解しておくことが大切です。
同じ年に受け取る場合と、年を分ける場合の違い
同じ年に受け取る場合は、受取額と対象期間をまとめる
同じ年に役員退職金とiDeCoなどを受け取る場合、通常は、その年の受取額を合計して計算します。
対象期間についても、同じ期間を二重に数えないようにまとめます。
最も長い期間に、ほかの給付の対象期間のうち重複しない部分を加える方法です。
例えば、3つの対象期間がすべて同じ20年間なら、過去の受給による調整がない場合の控除は、合計に対して800万円です。
800万円×3つ=2,400万円にはなりません。
また、同じ年の中で受け取る順番だけを変えても、基本的に最終的な税額は変わりません。
年を分けても、すぐに控除が満額に戻るわけではない
別の年に受け取る場合は、一定期間内の過去の退職金などとの重複を確認します。
基本的な2つの給付の組合せは、次のとおりです。
| 受け取る順番 | 後の受取時に確認する過去の期間 | 最初の受取が2026年の場合、左の期間から外れる年 |
|---|---|---|
| 小規模企業共済 → 役員退職金、またはその逆 | 前年以前4年内 | 2031年以降 |
| iDeCo → 小規模企業共済・役員退職金 | 前年以前9年内 | 2036年以降 |
| 小規模企業共済・役員退職金 → iDeCo | 前年以前19年内 | 2046年以降 |
※iDeCoを先に受け取る場合の「9年」は、2026年1月1日以後に受け取る老齢一時金が対象です。
表は、ほかの退職金や、過去の勤続期間を通算する取扱いなどがない場合の基本形です。
そして、3つある場合は、2つずつの比較だけで判断しないことが重要です。
例えば、役員退職金とiDeCoを同じ年に受け取ると、その年の計算では、前年以前19年内の退職金などを確認することになります。
次の事例では、この違いが税額に大きく影響します。
具体例:共済650万円、役員退職金2,000万円、iDeCo300万円
次のケースを考えてみましょう。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2019年5月・令和元年5月 | 小規模企業共済に加入 |
| 2021年12月・令和3年12月 | 法人の役員に就任 |
| 2024年3月・令和6年3月 | iDeCoに加入 |
| 2038年8月・令和20年8月 | 個人事業を廃業し、小規模企業共済650万円を受給 |
| 2043年9月・令和25年9月 | 役員を退任し、退職金2,000万円とiDeCo300万円を受給 |
計算上、開始月の1日から終了月の末日までを対象期間とし、掛金納付・勤続に中断はなく、iDeCoは2043年9月まで拠出する前提です。
ほかの退職金はなく、年齢などの受給要件を満たし、各給付が税務上も表の年分に帰属するものとします。
税額は、退職所得の受給に関する申告書を適正に提出した場合の源泉徴収・住民税の特別徴収ベースです。
確定申告による他の所得控除等の精算や、会社側の法人税への影響は含めません。
① 2038年の小規模企業共済は、税金0円
共済の対象期間は、2019年5月から2038年8月までの19年4か月です。
1年未満を切り上げ、控除計算上は20年となります。
退職所得控除=40万円×20年=800万円
受取額650万円は800万円以内なので、課税退職所得金額は0円です。
所得税・住民税ともに0円で、650万円が手元に残ります。
② 2043年の本来の控除は、22年分の940万円
2043年には、次の2つを同じ年に受け取ります。
| 受け取るもの | 受取額 | 対象期間 |
|---|---|---|
| 役員退職金 | 2,000万円 | 2021年12月~2043年9月 |
| iDeCo | 300万円 | 2024年3月~2043年9月 |
iDeCoの対象期間は、役員の勤続期間の中にすべて収まっています。
したがって、まとめた対象期間は、2021年12月から2043年9月までの21年9か月。
控除計算上は22年です。同年の複数給付は、期間を重複して数えずに計算します。
本来の控除=800万円+70万円×(22年−20年)=940万円
ここから、過去に受け取った共済との重複分を差し引きます。
③ 共済650万円は「16年分を使った」として重複を調べる
2038年の共済は、控除800万円に対して、受取額が650万円でした。
控除を使い切っていないため、後の計算では、前の受取額から対象期間を計算し直します。
受取額800万円以下の場合は「受取額÷40万円」で計算し、1年未満を切り捨てます。
650万円÷40万円=16.25年 → 16年
この16年は、共済加入の最初から数えます。
| 比較する期間 | 年月 |
|---|---|
| 共済で使ったとみなす16年間 | 2019年5月~2035年4月 |
| 今回の役員退職金・iDeCoをまとめた期間 | 2021年12月~2043年9月 |
| 重複する期間 | 2021年12月~2035年4月=13年4か月 |
重複期間の1年未満は切り捨てるため、調整するのは13年分です。
差し引く重複分=40万円×13年=520万円
したがって、2043年に使える退職所得控除は、
今回の22年分940万円−重複する13年分520万円=420万円
となります。
前回使い切れなかった控除は、過去の対象期間を短くして、今回の控除を減らしすぎない形で反映されていることが分かります。
④ 2043年の税金は、合計約253.9万円
受取額は、役員退職金2,000万円とiDeCo300万円の合計2,300万円です。
いずれも通常の2分の1課税を使える前提なので、
課税退職所得金額=(2,300万円−420万円)×1/2=940万円
となります。
これに、所得税の速算表と退職所得に対する住民税率を適用します。現行制度では、2043年の所得税本税に対し、復興特別所得税と防衛特別所得税を合わせて2.1%が上乗せされる前提です。
| 税目 | 計算 | 税額 |
|---|---|---|
| 所得税本税 | 940万円×33%−153万6,000円 | 1,566,000円 |
| 復興特別所得税・防衛特別所得税 | 所得税本税×合計2.1% | 32,886円 |
| 住民税 | 940万円×10% | 940,000円 |
| 税額合計 | 2,538,886円 |
小規模企業共済を含めた3つの受取総額は2,950万円なので、税引後の手取り合計は26,961,114円です。
6.iDeCoを翌年にすると、この事例では約119.7万円の差が出る
次に、役員退職金は2043年、iDeCoは翌年の2044年に受け取る場合を比較します。
比較条件をそろえるため、iDeCoの拠出は2043年9月で終え、受給だけを翌年に変更し、受取額も300万円のままとします。
役員退職金では、940万円の控除を使える
2043年にiDeCoを受け取らない場合、役員退職金について確認する過去の受給は、この事例では原則として前年以前4年内です。
2038年の共済は、この範囲から外れます。
そのため、役員退職金では、共済との重複分を差し引かず、22年分の940万円を控除できます。
課税退職所得金額=(2,000万円−940万円)×1/2=530万円
翌年のiDeCoでは、最低80万円の控除を使う
2044年のiDeCoは、前年に受け取った役員退職金との重複調整が必要です。
iDeCoの対象期間は19年7か月なので、本来の控除は20年分の800万円。一方、役員退職金と重複する期間は、端数を切り捨てた19年分で計算します。
800万円−40万円×19年=40万円
計算結果が80万円未満なので、最低額の80万円を使います。
課税退職所得金額=(300万円−80万円)×1/2=110万円
この場合、過去の共済との重複部分もありますが、その部分は役員退職金との重複期間の中に収まっており、同じ期間を二重に差し引く計算にはなりません。
税額の比較
| 受給するもの | 使える退職所得控除 | 課税退職所得金額 | 所得税等・住民税の合計 |
|---|---|---|---|
| 2038年:共済650万円 | 800万円 | 0円 | 0円 |
| 2043年:役員退職金2,000万円 | 940万円 | 530万円 | 1,175,782円 |
| 2044年:iDeCo300万円 | 80万円 | 110万円 | 166,155円 |
| 合計 | 1,341,937円 |
税率・端数処理は、先ほどと同じ前提で計算しています。
| 比較項目 | 役員退職金とiDeCoを同年に受給 | iDeCoを翌年に受給 |
|---|---|---|
| 3つの受取総額 | 29,500,000円 | 29,500,000円 |
| 税額合計 | 2,538,886円 | 1,341,937円 |
| 税引後手取り | 26,961,114円 | 28,158,063円 |
この事例では、iDeCoを翌年にすることで、税額が1,196,949円少なくなります。
差が出る理由は、単に所得を2年に分けたからだけではありません。
役員退職金の年にiDeCoを受け取らないことで、過去の共済との重複調整の取扱いも変わるためです。
ただし、この結果を「iDeCoは必ず翌年が有利」と一般化することはできません。
受取額、対象期間、過去の退職金によって結果は変わります。
金額が大きいものから受け取ればよい?
近い時期に別々の年で受け取り、対象期間が同じように重複するなら、多額のものを先に受け取る案は比較する価値があります。
所得税は課税対象額によって税率が上がるため、多額の給付に控除を効かせることで、高い税率がかかる部分を減らせる場合があるからです。
これは、退職所得の計算方法と所得税率の仕組みから導かれる考え方です。
ただし、理由は「少額のものを先に受け取ると、余った控除が消えるから」ではありません。
使い切らなかった場合にも、後の受取で控除を活かせる仕組みがあります。
また、今回の事例のように、受取額の大小よりも、iDeCoをどの年に受け取るかによって、使える控除額が大きく変わる場合があります。
したがって、金額順だけで決めず、3つを受け取り終わるまでの税額合計と手取り合計で比較することが大切です。
受け取り方を決める前に確認したいこと
「廃業による受取」と「任意解約」は違う
小規模企業共済は、廃業による共済金の一括受取であれば退職所得になりますが、65歳未満での通常の任意解約は一時所得です。
また、共済金を分割で受け取る部分は、公的年金等の雑所得として扱われます。
この記事の計算は、退職所得となる一括受取を前提にしています。
iDeCoは、自由に解約できるわけではない
iDeCoの老齢給付金は、原則として60歳以降、加入期間などに応じた受給要件を満たしてから受け取ります。75歳までに受給の請求が必要です。
受給年を分ける案を検討するときも、年齢と受給要件を確認する必要があります。
役員勤続年数が5年以下の場合などは、2分の1課税に制限がある
役員等勤続年数が5年以下の期間に対応する役員退職金には、2分の1課税がありません。
また、役員等勤続年数が5年以下の短期退職手当等に該当する場合は、退職所得控除を引いた後の金額のうち、300万円を超える部分には2分の1課税が適用されません。
振込日だけを翌年にしても、受給年を変えられるとは限らない
税務上の所得の年は、単純な入金日だけでは決まりません。
役員退職金の支給決議・金額確定や、共済金の給付事由などを確認する必要があります。
iDeCoの老齢一時金には別の取扱いがあるため、年を分ける場合は、税務上も別年になるよう、請求・裁定の時期などを事前に確認します。
まとめ:控除の「残り」だけでなく、3つ全体の受け取り方を考える
退職所得控除を考えるときの基本は、
「今回の対象期間に対応する控除額から、調整対象となる重複期間分を差し引く」
ということです。
最初に控除を使い切らなくても、その分がすべて無駄になるわけではありません。
一方、年を分ければ、毎回満額の控除を使えるわけでもありません。
小規模企業共済・iDeCo・役員退職金を受け取る際は、それぞれの「対象期間の開始・終了年月」「受取予定額」「受給予定年」を並べて確認しましょう。
大切なのは、1回の受取を非課税にすることではなく、3つを受け取り終わったときに、いくら手元に残るかです。
佐藤 修一
税理士法人Accompany 代表
(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。







