最低賃金が上がると清掃会社の利益はどうなる?現場ごとの「1時間あたりの限界利益」と契約単価の見直し方

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

清掃会社は、最低賃金の引き上げを最も強く受ける業種のひとつです。

費用のほとんどが人件費で、時給が最低賃金に近いスタッフが多く、そのうえ契約単価は交渉しない限り変わらないからです。

この記事では、現場(契約)ごとに「1時間あたりの限界利益」を出して赤字の現場を見つけ、作業時間の見直しと契約単価の交渉につなげる流れを、数字の例で説明します。
影響額の計算方法や全体の考え方は、「最低賃金が上がると会社はどうなる?中小企業が利益を残すための「1時間あたりの利益」の考え方」で、価格交渉の進め方は製造業版でも解説しています。

清掃業が最低賃金の影響を受けやすい4つの理由

  1. 費用のほとんどが人件費:清掃は人の手で行う仕事なので、洗剤や資材などの費用は小さく、売上の多くが人件費になります。時給の引き上げが、そのまま原価に響きます。
  2. 時給が最低賃金に近いスタッフが多い:パートや短時間の勤務が中心で、最低賃金が上がると、多くのスタッフの時給を一度に上げる必要があります。人手不足の中では、地域の水準より低い時給では人が集まりません。
  3. 契約単価は自動では上がらない:最低賃金は毎年秋に変わりますが、契約の単価は、更新のときに交渉しない限りそのままです。
  4. 何年も同じ単価で更新している現場は、気づかないうちに赤字になっていることがあります。
  5. 移動や待機にも時間がかかる:巡回清掃のように複数の現場を回る仕事では、現場の間の移動にも人の時間がかかります。契約単価には、この時間が十分に入っていないことがあります。

だからこそ、会社全体の決算だけでなく、現場ごとに数字を見ることが大切です。

現場ごとの「1時間あたりの限界利益」を出す

清掃会社では、現場(契約)ごとに次の2つを出します。

  • 限界利益=契約額 − 変動費:変動費は、洗剤や資材、消耗品、現場への交通費、外注費など、その現場の仕事に合わせてかかる費用です。人件費はここでは引かず、あとで「1時間あたりの人件費」として別に引きます(本体記事では分かりやすさのため「粗利」と書いていますが、清掃業では限界利益で見るほうが正確です)。
  • 時間=その現場にかかった人の時間の合計:清掃している時間だけでなく、現場の間の移動や待機の時間も含めます。

主な4つの現場を例に、月ごとの数字を比べてみます。最低賃金改定後の1時間あたりの人件費は、社会保険料などを含めて1,400円(改定前は1,335円)とします(数字は説明のための例です)。

現場限界利益(月額)かかった時間(月)1時間あたりの限界利益1時間あたりの利益
A オフィスビル(日常清掃)114万円620時間約1,840円約440円
B 商業施設(定期清掃)72万円330時間約2,180円約780円
C マンション(巡回清掃)38万円300時間約1,270円約−130円
D 病院(日常清掃)140万円830時間約1,690円約290円
合計364万円2,080時間1,750円350円

4現場の合計では、1時間あたり350円の利益しか残っていません。ここから、現場責任者や営業、事務の人件費と、事務所の家賃などを払います。

最低賃金の改定で1時間あたりの人件費が65円上がると、2,080時間 × 65円で月約13.5万円、年約162万円の負担増です。そして現場Cは、働けば働くほど赤字が増える状態です。

赤字の現場の原因を分ける

「かかった時間」を中身ごとに分け、契約したときに想定した作業時間と比べます。

現場作業時間移動・待機移動・待機の割合契約時に想定した作業時間
A オフィスビル600時間20時間3%600時間
B 商業施設300時間30時間9%300時間
C マンション220時間80時間27%220時間
D 病院820時間10時間1%700時間
  • 現場Cは、かかった時間の27%が移動と待機です。小さな物件を巡回しているためで、契約単価にはこの時間が入っていません。
  • 現場Dは、作業時間が契約時の想定より120時間(約17%)多い状態です。契約のあと、清掃する範囲や回数が少しずつ追加されたのに、単価は据え置きのままです。
  • 現場AとBは、想定どおりの時間ですが、単価が何年も前のままなので、最低賃金が上がるたびに利益が薄くなっています。

原因によって、打つ手が変わります。

原因例打ち手
移動・待機現場C巡回のルートや訪問の順番を見直し、近い現場を組み合わせる
仕様の追加現場D仕様を契約時に戻すか、追加分を価格に反映してもらう
単価が古いすべての現場最低賃金の上昇などを根拠に、契約単価の見直しを求める

移動のように社内で直せるものは先に直し、仕様と単価は数字をそろえてお客様に相談します。

作業時間と移動時間を減らす

移動と待機を減らす

  • 巡回のルートを組み直す:物件を地図に落とし、近い物件を同じ日にまとめます。新しい物件を受けるときも、今のルートに乗るかどうかを判断の材料にします。
  • 事務所に寄る移動を減らす:資材の置き場を現場の近くに確保したり、現場への直行直帰を認めたりします。
  • 待機を減らす:鍵の受け渡しや管理人の不在による待ちを、事前の連絡や作業時間の取り決めで減らします。

たとえば現場Cの移動・待機を80時間から40時間にできれば、かかる時間は260時間になり、1時間あたりの限界利益は約1,460円、利益は約+60円と、赤字から抜け出せます。

作業時間を減らす

  • 手順と担当範囲を決める:現場ごとに作業の順番と担当を決め、作業マニュアルにします。人による時間のばらつきが減り、新しいスタッフも早く慣れます。
  • 機材を見直す:床洗浄機や清掃用の機器を使うと、広い床の作業時間を大きく減らせます。業務改善助成金の対象になることもあります(申請の前に管轄の労働局に確認してください)。
  • 回数と範囲を相談する:汚れのたまりにくい場所は、お客様と相談して清掃の回数を見直します。

ただし、減らせた時間が利益になるのは、その分のシフトを減らすか、別の現場の仕事に回したときだけです。

契約単価の見直しと取適法

自社の取引は取適法の対象か

2026年1月から、下請法が「取適法(中小受託取引適正化法)」になりました。清掃の仕事は、取適法の「役務提供委託」にあたることがあります。ポイントは、誰から、何の清掃を受けているかです。

  • 対象になりうる:ビル管理会社などが、ビルのオーナーから請け負った清掃業務を、自社に再委託している場合
  • 対象にならない:ビルのオーナーや入居している会社が、自分で使う建物の清掃を、直接自社に頼んでいる場合(自ら使う役務の委託は対象外です)

さらに、取引先と自社の規模の組み合わせも条件です。清掃のような役務提供委託では、次のいずれかの組み合わせです。

取引先(委託する側)自社(受託する側)
資本金5千万円超資本金5千万円以下
資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下
従業員100人超従業員100人以下

細かい条件は、公正取引委員会の資料で確かめてください。

対象になる取引では、受託する側が価格の協議を求めたのに、取引先が協議に応じず一方的に代金を決めることが禁止されています。申し入れは、書面やメールで根拠資料をつけて行い、記録に残します(進め方は製造業版でも解説しています)。

直接契約のお客様には

取適法の対象にならない直接契約でも、国の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、価格交渉の考え方として参考になります。

それ以上に伝わるのは、「今の単価では人が集まらず、清掃の品質を保てなくなる」という現実です。

お客様にとっても、清掃が届かなくなるのは困ることなので、数字を示して、契約更新の前に早めに相談します。

法律の個別の判断が必要な場合は、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口、専門家に確認してください。

交渉資料の作り方

交渉資料は、次の4つで組み立てます。

  1. 公表資料:最低賃金の上昇率(令和8年度は福岡県で約5.4%)など、誰でも確かめられる数字を示します。国の指針でも、最低賃金の上昇率は交渉の根拠に使える公表資料とされています。また国土交通省は、国の建物の清掃などを発注するときに使う「建築保全業務労務単価」を、令和8年4月から前年度比8.5%引き上げています。
  2. 1時間あたりの人件費の上昇:モデルでは1,335円から1,400円へ、65円上がっています。現場ごとの影響額は「その現場の時間 × 上昇額」で出せます。
  3. 作業時間の実績:契約時の想定と、今の実績の差を示します。追加された作業は、いつ、誰の依頼で、何が増えたかを記録しておきます。
  4. 2つの選択肢:「仕様を契約時に戻す」か「今の仕様に合わせて単価を見直す」かを、お客様に選んでもらいます。

現場Dでの例

1時間あたりの利益の目標を500円として、現場Dに2つの選択肢を示すと次のようになります。

現場D今仕様を契約時に戻す今の仕様で単価を見直す
契約額(月額)150万円150万円約168万円
かかる時間(月)830時間710時間830時間
1時間あたりの限界利益約1,690円約1,970円約1,900円
1時間あたりの利益約290円約570円約500円

選択肢を示すと、お客様は「価格を上げるか、範囲を絞るか」を自分で選べるため、話し合いが進みやすくなります。

現場Cのように、ルートを見直しても利益がほとんど残らない現場もあります。モデルでは、1時間あたり500円の利益を出すには、移動を減らしたうえでも月約51万円(今の約1.3倍)の契約額が必要です。単価の見直しが難しければ、その現場を続けるかどうかも、判断の選択肢に入れます。

自社の数字で計算する

契約の一覧と、勤怠・日報の現場別の時間があれば、次の表で計算できます。まずは直近の1か月分で出してみてください。

現場① 限界利益(契約額 − 変動費)② 作業時間③ 移動・待機④ 契約時に想定した作業時間⑤ 1時間あたりの限界利益(① ÷(② + ③))
合計

計算するときのポイントです。

  • 1時間あたりの人件費:現場スタッフの人件費(会社が負担する社会保険料なども含む)÷ 現場スタッフの総労働時間で出します。
  • ⑤が1時間あたりの人件費を下回る現場から手を打ちます。
  • ②が④より大きい現場は、契約のあとに仕様が追加されていないかを確かめます。
  • ③の割合が高い現場は、ルートや訪問の順番を見直す余地があります。
  • 現場責任者の巡回や管理の時間も、できれば現場ごとに分けておくと、より正確になります。

数字を一緒に見たい方へ

税理士法人Accompany(福岡)では、会計の数字をもとに、経営者と一緒に「どこに手を打つか」を整理するご支援をしています。

清掃会社の場合は、決算書に加えて、契約の一覧と勤怠・日報のデータから、次の3つを一緒に確かめます。

  • 現場ごとの1時間あたりの限界利益と、最低賃金の引き上げによる影響額
  • ルート・作業手順の見直しと、契約単価の交渉のどちらから手をつけるか
  • 交渉資料に使う数字の整理

お問い合わせはこちらからどうぞ。

出典

佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。