最低賃金が上がると飲食店の利益はどうなる?「1時間あたりの利益」で考える対策

佐藤修一

こんにちは。税理士法人Accompany代表の佐藤修一です。

最低賃金が上がると、飲食店はほかの業種より強く影響を受けます。

パート・アルバイトが多く、仕込みから片付けまで、働く時間も長いからです。

ただし、影響は1日の中で均等に出るわけではありません。

売上の少ない時間帯ほど、人件費が粗利を上回りやすくなります。

この記事では、最低賃金の影響を「時間帯別の1時間あたりの利益」で見て、どこから手を打つかを整理します。

影響額の計算方法や全体の考え方は、「最低賃金が上がると会社はどうなる?中小企業が利益を残すための「1時間あたりの利益」の考え方」で解説しています。

飲食店が最低賃金の影響を受けやすい3つの理由

  1. パート・アルバイトの割合が高い:宿泊業・飲食サービス業では、働く人の7割を超える人がパートタイム労働者です(毎月勤労統計調査)。時給が最低賃金に近い人が多いほど、引き上げはそのまま人件費に響きます。
  2. 売上が生まれない時間が長い:仕込み、開店準備、片付け、閉店後の清掃など、お客様がいなくても人が働く時間があります。この時間の時給も一緒に上がります。
  3. 忙しさの波が大きい:ランチとディナーのピークに合わせて人を置くと、その間のアイドルタイムに人が余ります。売上の少ない時間帯ほど、時給の上昇で赤字になりやすくなります。

一方で、ピークに人が足りないと売上を逃すため、むやみに人を減らすこともできません。
だからこそ、「人を減らすかどうか」ではなく、「どの時間帯に、何人いるべきか」を数字で見ることが大切です。

人件費率やFL比率だけでは見えないこと

飲食店では、売上に対する人件費の割合(人件費率)や、食材費と人件費を合わせた割合(FL比率)がよく使われます。

FL比率は60%前後が目安と言われることの多い指標です。

ただ、これらの「率」には2つの弱点があります。

  • 1日の中の差が消える:月や年の合計で見るため、「ランチは黒字、アイドルは赤字」という差が、合計すると見えなくなります。
  • 売上が伸びると、ムダに気づきにくい:売上が増えれば率は下がるため、人が余っている時間があっても問題に見えません。

そこで、もう一つの物差しとして「1時間あたりの利益」を使います。

1時間あたりの利益 = 1時間あたりの粗利 − 1時間あたりの人件費

1時間あたりの粗利は、「人時生産性」とも呼ばれます。

飲食店では、粗利(売上 − 食材費などの原価)を、パート・アルバイトを含めた全員の労働時間で割って出します。

人件費率と違い、時間帯ごとや店舗ごとに分けて比べられるのが強みです。

時間帯別に「1時間あたりの利益」を出してみる

年商1億円の店舗を例に、ある1日を時間帯別に分けてみます。
粗利率は60%、1日の労働時間は全員で合計60時間、最低賃金改定後の1時間あたりの人件費は1,550円とします(数字は説明のための例です)。

時間帯粗利労働時間1時間あたりの粗利1時間あたりの利益
仕込み(9〜11時)―8時間――
ランチ(11〜14時)5.4万円15時間3,600円2,050円
アイドル(14〜17時)0.9万円9時間1,000円−550円
ディナー(17〜22時)11.7万円22時間約5,320円約3,770円
片付け(22〜23時)―6時間――
1日の合計18万円60時間3,000円1,450円

1日の合計では、1時間あたり1,450円の利益が出ています。
この数字だけを見ると問題なさそうですが、時間帯別に分けると、3つのことが見えてきます。

  1. アイドルは働くほど利益が減る:1時間あたりの粗利が1,000円で、人件費の1,550円を下回っています。最低賃金が上がるたびに、この赤字は大きくなります。
  2. 仕込みと片付けが1日の約23%を占める:直接は粗利を生まない時間が、60時間のうち14時間あります。ここを短くできれば、その分の人件費がそのまま利益になります。
  3. ディナーは利益の柱:1時間あたり約5,320円を稼いでいます。ここの人を削ると、提供が遅れて売上を逃すおそれがあります。

たとえば、アイドルの売上を落とさずに、この時間帯の労働時間を9時間から5時間に減らせたとします。

4時間 × 1,550円 × 年330日で、年約200万円です。

本体記事で計算した「年商2億円・2店舗の飲食店の最低賃金の影響(年約200万円)」を、1店舗のアイドルの見直しだけで取り戻せる計算です。

飲食店の4つの打ち手

本体記事で紹介した「差を守る4つの方法」を、飲食店に当てはめると次のようになります。

  1. 値付け:すべてのメニューを一律に上げるのではなく、メニューごとの粗利を見て決めます。看板メニューや、ほかの店と比べられやすいメニューは据え置き、手間のかかるメニューや、ほかにない価値のあるメニューから見直します。ランチとディナーで価格の考え方を分けるのも一つの方法です。
  2. 時間当たりの量:同じ人数で提供できる量を増やします。仕込みを曜日ごとにまとめる、半調理品やカット済みの食材を使う、厨房の動線を見直すなど、作業時間そのものを短くする工夫です。
  3. 稼働率:働いている時間のうち、売上につながる時間の割合を上げます。アイドルタイムに翌日の仕込みやテイクアウトの準備を回す、予約を増やしてピークを読みやすくする、などが考えられます。
  4. 人の配置:時間帯別の売上の予測に合わせてシフトを組みます。アイドルの人数を減らし、ピークに人を厚くします。注文や会計をモバイルオーダーやセルフレジに任せ、接客の人数を抑える方法もあります。

手をつける順番は、3と4からがおすすめです。
時間帯別の数字があればすぐに始められ、お客様への影響も小さいからです。
値上げは、そのうえで次の早見表を使って判断します。

値上げで客数がどこまで減っても大丈夫か

値上げをためらう一番の理由は、「お客様が減るのでは」という不安です。
そこで、値上げしても粗利の合計が変わらない、客数の減り方の上限を計算しておきます。

原価率3%値上げ5%値上げ10%値上げ
30%4.1%減まで6.7%減まで12.5%減まで
35%4.4%減まで7.1%減まで13.3%減まで
40%4.8%減まで7.7%減まで14.3%減まで

たとえば原価率30%の店が5%値上げした場合、客数の減少が6.7%以内なら、粗利の合計は値上げ前と同じか、それ以上になります。
客数が減った分だけ人の配置を見直せれば、1時間あたりの利益はさらに上がります。

計算式は「値上げ率 ÷(粗利率 + 値上げ率)」です。
粗利率は「1 − 原価率」で、食材の原価は値上げ前と変わらないものとして計算しています。
実際に値上げしたら、メニュー別の出数と客数を毎月確かめ、この表の範囲に収まっているかを見ます。
なお、メニューの価格は税込みの総額で表示する必要があるので、メニュー表やネットの情報もあわせて変えます。

業務改善助成金を飲食店で使うなら

業務改善助成金は、作業時間を減らす設備投資と賃上げをセットで行うと、費用の一部が助成される制度です。飲食店では、たとえば次のような設備が候補になります。

  • 食器洗浄機やスチームコンベクションオーブンなど、厨房の作業時間を減らす機器
  • POSレジ、券売機、モバイルオーダーなど、注文と会計の時間を減らす仕組み
  • 勤怠やシフトを管理するシステム

対象になるかどうかは、事業場ごとの計画の中身で判断されます。申請の前に、管轄の労働局に確認してください。

令和8年度の福岡県の受付は、最低賃金の発効日(10月4日)の前日で終わっています。
来年度に向けて、今のうちに時間帯別の数字を出し、どの作業の時間を減らすかを決めておくと、申請の準備がスムーズです。
制度の要点と、設備を入れる前に確かめる「2つの生死テスト」は、本体記事で解説しています。

自店の数字で計算する

POSレジの時間帯別の売上と、勤怠データの時間帯別の勤務人数があれば、次の表で計算できます。まずは平日と土日の代表的な1日ずつで出してみてください。

時間帯① 粗利② 労働時間③ 1時間あたりの粗利(① ÷ ②)④ 1時間あたりの利益(③ − 人件費)
仕込み―――
ランチ
アイドル
ディナー
片付け―――
1日の合計

計算するときのポイントです。

  • ① 粗利:時間帯別の売上に、店全体の粗利率(1 − 原価率)をかければ十分です。
  • ② 労働時間:その時間帯に働いていた人数 × 時間です。社長や店長が現場に入っている場合は、その時間も入れます。
  • 人件費(1時間あたり):月の人件費 ÷ 月の総労働時間で出した平均を使います。会社が負担する社会保険料なども含めます。
  • 仕込みと片付け:労働時間だけ記入し、1日の労働時間の何割を占めるかを見ます。
  • ④がマイナスの時間帯から、シフトの見直しを考えます。

数字を一緒に見たい方へ

税理士法人Accompany(福岡)では、会計の数字をもとに、経営者と一緒に「どこに手を打つか」を整理するご支援をしています。

飲食店の場合は、決算書に加えてPOSレジと勤怠のデータから、次の3つを一緒に確かめます。

  • 時間帯別・店舗別の1時間あたりの利益と、最低賃金の引き上げによる影響額
  • シフト・仕込み・値付け・設備投資のうち、どこから手をつけるか
  • 返済後に残る利益と、手元のお金で何か月もつか

お問い合わせはこちらからどうぞ。

出典

佐藤 修一

税理士法人Accompany 代表

(九州北部税理士会福岡支部所属:登録番号028716) 公認会計士・税理士。全国の中小企業にこれまでクラウド会計導入実績累計300社超、クラウド会計導入率70%超。2022年freee西日本最優秀アドバイザー、マネーフォワードプラチナメンバー。 (株)インターフェイス主催第18回経営支援全国大会優秀賞。 全国各地の中小企業に対して、会計から利益とキャッシュを稼ぐ力を高め、キャッシュフローを重視した節税提案、利益とキャッシュを稼ぐ力を高めるサポートや事業再生支援を行っている。 総勢30名のスタッフで「Warm Heart(温かい心)&Cool Head(冷静な頭)」をコンセプトに個々のお客様ごとにカスタマイズしたお客様に寄り添うサービスを提供している。